自伐型林業という言葉が定着しつつあるのは土佐の森救援隊のお手柄だが、一般市民による森林の整備や資源活用の切り口は様々。お金にならなくたって山に関わりたい人はたくさん居る。
 また、木の駅プロジェクトの様な「チェンソーと軽トラ」で出来ることは、事業体が山に切り捨てた林地残材を人力で引っ張り出してきて活用するところまで。

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 今は薪ストーブも大分定着して、その薪の調達を自分たちでやっている人たちも多い。でも、広葉樹の伐採は針葉樹と比較できない位に危ないんだよね。特に今の時代は放置されて大きくなりすぎた木が多いから。

 木を「安全に伐採」するには、色々な道具と智慧が要る。また、針葉樹の林業地の様に枝打ちや適正な間伐が行われているところでない限り、伐った木が他の木に引っかかって倒れてこない「掛かり木」が、発生するのは普通のことだ。

 それで、道具や智慧がないとみんな元玉切りをやる。なんで言い切るかと言うと、当協議会の講習会で受講者に確認するとチェンソーワークを習っただけの人たちはみんなやっていると言うから。
 相当数の講習会をこなしてきて、それで皆さんに聞いているので、これは実際のところだろう。そして、みんな危ない目に、痛い目に遭っている。

 島根では、全林協から発刊されている名著「伐木造材のチェンソーワーク」を書いているNPO法人ジット・ネットワークサービスの島根支部の人たちや、書いたご本人の石垣先生が来て、事業体から各自治体の住民たちにチェンソーワークを教えている。

 安全なフォームから徹底して教えるジットのメソッドを習っているからだと思うが、お陰様で島根では一般市民のチェンソーによる切削事故の話は聞かないし、また伐採が上手になった人たちも多い。

 もちろん伐採の講習会では、講師の誰でも掛かり木にならない方向、掛かっても外れやすい方向を狙って倒せと言うし、当然、ジットでも狙ったところに木を倒すための方法を論理的に教えている。このピンポイントを狙って伐採する方法については多くの市民でも分かっていることだろう。
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 それでも、此方中国山地の放置林では掛かり木の処理に追われることばかり。そして針葉樹だけでなく、大きくなった広葉樹の偏芯木が多いからこれまた難儀なことばかり。森林の内、広葉樹率が60〜70%位のところが多いから、中国地方の森林資源活用は危ない広葉樹をどうするかが問題。

 ジットでは、ツル切りから木回し、三倍力牽引までは教えるけれど、安全なチェンソーワークを教えるのがメインなので、時間的に一般向けの掛かり木の処理は大体其処までくらいしか教えられないだろう。

 以前に、チェンソーワークだけ教えて掛かり木の処理を教えておかないと危ないから、掛かり木処理をメニューに入れて下さいと何度か頼んだことがあるけど、そこまでは手が回らないのは仕方がないこと。

 なので、その後、うちの協議会が住民の人たちに教えることになったという訳。それも、木に登らずに、樹上伐採の道具なども転用して、地上から樹上にロープやワイヤーを掛ける技を6種類以上使う。
 よって、地上からできる方法をほぼ網羅していて(Wランヤードを使っての安全にハシゴ上の作業方法も含め)、ツリーワーク以外の方法(樹上伐採のためのツリーワークは当ブログ記事にある様にODSK主催のものを島根で開催)について教えられるので、ちゃんと教わった人たちはかなり安全になっているのではないかと思う。

 皆さん、道具や他に術がないから危ない無理なことをする訳だけど、道具を使いこなす智慧もないと、結局は同じこと。
 また、道具が高額になると中々手が出せないこともある。チルホールも最近値上がりしているという噂もあるけれど、750kg引きでも6、7万円する。

 うちは二十年くらい前にリサイクル屋さんで1万5千円くらいで手に入れたS7(750kg引き)と、数年前に前に住んでいた集落のおばあちゃんにもらったT7があるから安く済んだけど新品を買うとなったら気合が必要だ(ちゃんと1.6引きは新品で買ったけど)。

 でも、長いロープと滑車がたくさんあれば、人力で外せる掛かり木も多い。滑車2つで3倍力ができるし、あと2つ追加して4つあれば9倍力ができる。それで足りなければプラロックのハンドウィンチで引っ張れば大抵のものは外せる。
 まずは倍力が掛けられる高強度の長いロープありき。

 今回の阿武町の自伐型林業体験講習では、20m以上のヒノキの直立不動の掛かり木を、オバちゃん達の気合が入った人力のみで処理をした。スッゲー!

 ね、安上がりでしょ。わたしが元々貧乏人なので、当協議会のノウハウはお金を掛けずに効果を上げるところに根幹がある。良い道具が欲しくても手に入らないので、他に方法がないかをまず考えるとか、お金を介さない対価交換方式の付き合いを醸成するとか。

 だから、チェンソーは何台も色々なところから貰っているし、ワイヤーやチルホールも前に住んでいた集落のところへ行って頂いて来ている。

 これが田舎暮らしのダイナミックなところだよね。ところが都会から来た多くの人が金金言っていて、自分から何も地域の役に立つこともやらずにいて食べられないとか言うんだけど、そういう人に自分から先ず差し出すことを何かやればといっても無視られる。
 勿体ないよね農山村は宝の山なのに。

 ということで、その講習会のオバさん達(お母様方)の、ローコストの掛かり木処理の様子をお届けしてみる(お金が掛かっていない訳ではないけれど、安全で楽な方法の最低コストで)。其の前に、またまたの能書きを・・・


【海里山が美味しい阿武町】
 さて、阿武町は萩と島根の間にある海の綺麗な町で、海沿いの国道191号線(下関〜広島)を走っているだけで癒されるとても素敵なところなのだ。
 そしてリニューアルした道の駅(道の駅発祥の地ともなっている)には、地元の獲れたての魚が格安で並ぶので開店前から行列ができる元気の良いところ。

 この辺りの魚介類は海流の関係で格別に美味しい、と思う。島根でも鮮魚は東部よりも西部の方、此方の山口側寄りの方がなぜか美味しい。
 磯に張り付いている亀の手(地蔵の手)も、神奈川の三浦半島で採って食べたものとは比較にならないくらいに美味しくて、此方に来てからは超大好物になってしまった。
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 此方の地方は対馬海流が入っている。また、昔はたたら製鉄を行なっていたことから解る様に砂鉄を含む土壌が山にあるので、今も鉄分が海まで流れ込んでいることで富栄養化に繋がっているかもしれない。
 島根東部について、そちらでは魚は島根半島沖のものが揚がってきているのだが、昔の仕事仲間(今も時々連絡をしているが)にかつて埼玉の春日部の族の頭だった人がいて、これまた見た目も怖いのだが(本当は優しくて礼儀正しい)、その人が大昔に島根原発の海に潜った話をしてくれたことがある。

 その内容は、原発の排水で海水温が高く熱帯魚が泳ぐ南の島の海の様だったと。そして、そんな事をやっていたら、哨戒艇じゃないけれど見張りの高速ボートがやってきてヤスを持った怖い人たちに引き上げられ、事務所に閉じ込められて勤めている会社に電話をされたり身元確認をされたそうだ。

 今の時代はどうなのか知らないけれど、原発の海はやっぱりアンタッチャブルな領域かも。その様なことがあってかどうかは判らないけれど、同じ魚でも島根半島沖のものよりも西部の益田沖とか萩沖のものの方が美味いと感じる。

 そんな島根西部暮らしでは、地元の個人スーパーでも美味い刺身が手に入るし、隣の益田市まで足を伸ばせば、個人鮮魚店ではいつも感動する様な美味しい刺身が手に入る(刺身の角がピンピンに立っている様な新鮮なものなので、日にちを置いた方が熟成してさらに旨い)。

 また時期によるが、山口側の田万川の道の駅では天然の大きな真鯛が千円以下になることもある。大きいものは12インチのロッジのスキレットで蓋もガス台でよく焼いてオーブン状態で塩焼きにすると最高に旨い。

 そして阿武町の道の駅にもたまに買い出しに行くが、わざわざ阿武町に行かなくても、クエとか石垣鯛などのおすそ分けが向こうからやってくる時がある。

 素潜り30mの技を持ち、底物を突いてくる男。日本各地の海を潜り歩いて山がダメになると海までが荒れる事を実感し、自伐型の林業をやってみたいと神奈川の葉山からわざわざ島根に移住してきてからの付き合いで、もう5年になる。

 もう有名人なので名前を出してもいいだろう。自伐協のスタッフにまでなってしまった田口氏である。その彼が時々海のものを届けてくれるのだ。
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 地域おこし協力隊として、吉野林業の岡橋氏に山に優しい壊れない作業路開設を習い、その後卒業してもう直ぐ二年になる。
 彼のことは、他の記事にも書いていると思うが、雲南市で講習を含めて作業路開設をやって貰って二年半くらいになるけれど、未だ破綻の兆しも見えないしっかりした路だ。一応、当縄文之森協議会のスタッフでもある。

 卒業後は、津和野町のわさび協議会をプッシュして築地の仲卸に乗り込み、島根わさびの素晴らしさを広めたり、シンガポールに飛んで同じく島根わさびへの認知を拡大してきた。

 でも、元々は海の人間。近くの阿武町は移住前からの潜りの場所。通って地域の人とも仲良くなり、町長にも自伐型林業の必要性をアピールして、ついには阿武町にも会社を立ち上げてしまった。も、と言うのは協力隊二年目で会社を立ち上げていたからだ。

 初年度に募集育成担当だったわたしと、林業道具を買うに際して役場を通していると、相見積もりが必要だとか地元の店で買えとか制限が多すぎて、必要な道具さえ買えなくなるので、団体を立ち上げて其処に活動費が入る様にしないと無理だねと話をしていたら、行動力がある彼は翌年度には速攻会社を立ち上げたと言うわけ。

 色々あるけれど津和野が一応上手くいっている様に見えているのも彼が居たから。彼の会社で道具を買ったりバックホウやダンプ、フォワーダなどをリースで設備出来ているから、小規模林業の事業を回せていけているということ。役場がそんなこと出来る訳がないでしょう。

 自治体が地域おこし協力隊を入れて自伐型林業を推進しようとするならば、活動費をマネージする別の団体も併用しないと、ただの体験で三年間が終わってしまうのは自明の理。

 そして、自分勝手な人間は早々にご遠慮いただく体制づくりと、生活態度や心がけなどについてまで指導できるリーダーが不在ならば早晩事業が崩壊するのも目に見えている。

 山での作業は職人的感覚を育てられない様な素養のない人間は危なくて使えないし、また他人と協力して、そして自分以外の仲間に対しても気遣いを出来なかったり、相手の意図を察して連携した作業が出来ない様な人間が入ったら、危なすぎてチーム自体が崩壊するのは当たり前。

 だからと言って他人任せの様な依存心が強くて受け身の雇われ人根性の人間は、自伐という自営業は土台無理だし、こういった人間は無責任な言動や作業内容に繋がるため、他人を危険な目に遭わせてしまうことに繋がるから、最初から入れない方が良い。

 どんな人間か見抜く力も持たず、また其の必要がないサービス業の役場が、こういった問題の洗い出しや、事前フィルターをかけてトラブルの種をクリアして事業をコントロールすることが出来るわけがないと考えるのは、厳しい一般社会で練られてきた人たちにとっては普通の思考だろう。

 もし、地域に優れた山仕事の指導をできる人が不在ならば、誰かが死んで問題になる前に役場は手を出さない方が賢いのではないだろうか。その点についての参考値、一つの切り口として吉野の黒滝村の様に地域おこし協力隊を森林組合に預けてしまうのも手かも知れない。

 ただし、これは吉野という大昔からの林業地ということと、森林組合のおじさん達が若い連中を本気で心配して可愛がってくれると(と元隊員から聞き及んでいる)いう良い条件が整っているからだし、またSKYチームという移住者の樹上伐採のトップクラスの先輩達がいる様な条件が揃った稀有な例だろう。

 田口氏曰く、「自伐型林業は経営ですから。」と、昨日行った阿武町の自伐型林業講習1回目が終わった後に、他地域で自伐を目指す若い人たちと一緒に現在開設している阿武町の遠岳の作業路を見に行って、開設中の終点に置いてあった新しく導入したバックホウを見ながら言っていた。

 田口氏の会社は津和野町で使っているバックホウ数台、2t4WDダンプ、フォワーダのリース費用から隊員の道具類などを管理している上に、今度は阿武町のバックホウ、キャニコムのリモコン林内作業車、2tユニック車、ウッドマイザー製材機などなどの自伐型林業機器他を含めて管理している。

 その他に、国から取ってきた町全体の海里山連環で行う阿武の地域活性化事業のハンドリングを銀行からの融資を受けて一手に引き受けている。

 仕事ができる男は違うね〜。私みたいな小者などとは違いすぎる。

 で、良いんだけど、自分が欲しい遊び道具は全て揃っているのに、自分自身が動かす時間が無くなってしまい、お金と事業のハンドリングばっかりやっている。

 本人曰く、「何やっているんですかね〜。山でノンビリと木を伐って暮らすはずがこんなことになってしまって・・・」、と。

 あれっ、と思い出して五年くらい前に書いた全林協さんの「New自伐型林業のすすめ」の原稿を引っ張り出してみた。
 下記がその時の原稿だが、茶色の部分が本に載った内容。
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『すでに県外から数人の応募があり、個別に体験講習会を行っているところです。体験講習を通して向き不向きの素養は確認しましたが林業経験は不問です。これは、山のことを全然わからない素人が、どの位の期間である程度作業が出来るようになるか。そして機材が扱えるようになって、どの位の搬出量が見込めるようになるか(林地の条件、使用機材、天候、搬出量、所要時間、燃油費など)という各種要素も含めてデータサンプリングを行うことが目的の一つです。
何故ならば、これ等のデータは、今後UIターンによる素人山主さんや移住者が自伐林家的取組みを行なおうとする際に役に立つことになるでしょう。新しく参入する人たちが生活できるかどうか計画をたてる上での参考値になりますし、自分の山ではどのような機材を揃えてどのように取り組めば良いのか方策の検討に役に立つようになります。

別項の様に手に入れやすい低価格の機材と智恵で搬出する津和野スタイルのシステムが構築できればと考えています。それは、副業型自伐林業では、初期投資を少なくして参入しやすい敷居の低い間口を作っておくのが要だと考えるからです。力ではなくて、智恵と工夫で楽に作業を行うシステムづくりです。そうすれば安全性も高まりますし、取り組む人も増えるでしょう。

つまり単なる林業従事者の育成ではなくて、山に住み、山の智慧を受け継ぎ、資源を活用して地域の山守を行う人が育って欲しいのです。目指すはスーパー素人です。依存から自立へ。中山間地域や地方の再生、自立の鍵は、豊富な山の資源活用を住民自らが行なう自伐型、副業型、小さな林業にあると思えるからです。』

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 この原稿のピンク色のカットされてしまったテキストにある様に、本来わたしが育成担当に在籍していた時には、初期投資を少なくしてステップアップで力を付けていき負担のない方法を模索しようとしていたのだが、仕事が出来すぎる此の男が関わると、今となっては、「もはや自伐林業とは言えませんよね。これじゃあ林業事業体でしょ。」、と言い出す始末に。

 やり過ぎ、働き過ぎ。で、彼氏が持っている遊び道具は、樹上伐採のためのクライミングアイテムからチェンソーが一番小さいのから一番でかいのまで各種揃って5、6台はあるはずだし、チェンソー製材機も数種類ある。車のハイゼットジャンボのアゲトラからダットラ4WDのセミキャブもデリカのD:5もあるが、今となっては軽トラもダットラも遊ぶ暇なしで処分予定だとか。

 昔は私の方が田口氏に講師や助手などの仕事を彼に斡旋していたけど、いまは逆に彼から仕事を貰う立場に。昨年末と今年の初めで自伐協の予算で、路作りの際の危険木支障木処理のワークショップと、路作り講習の2回講習会を開いたし、今回の入門編もそう。

 そして、前回の時の二日間講習の泊まりの際には、こんな料理が出るお宿に泊めてくれたりした。
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 これは料理の最初の方、後から後から海の幸が出てきた。田口氏が島根に移住する前からお付き合いがあった漁師の宿だから余計に豪華なのかもしれない。
 今では、田口氏にわたしを雇ってくれと頼んでいるのだが・・・


【風光明媚な町、阿武町が山のことを真剣に考え始めた】
 今から六年ちょっと前、2013年の7月に起きた豪雨災害で津和野町は激甚災害指定を受けたが、隣の山口側の方が被害が酷かった。国道も線路も流され被害家屋も多く、阿武町も内陸部が同じ様に被害を受けていた。

 阿武町は海の町だが山側は積雪もあるバラエティに富んだ地域だ。移住者も増えてきているのは景色が良い海岸線と、そこに近い山々から構成されているロケーションが素晴らしい北長門海岸国定公園(きたながとかいがんこくていこうえん)のエリア内だからだろう。
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 そして昨年、萩ジオパークが認定され、阿武町もそのジオパークのエリアに入っている。それもあって、田口氏は町長直に眺望が素晴らしいが一般の人たちがアクセスする方法がない遠岳(とおたけ)という独立峰にある町有林の整備事業も含めて、山に優しい壊れない作業路を入れていけば観光も含めて一石二鳥になることを提案していた。
遠岳作業道案
 その時の当初の路線案が上の画像のもの。わたしはマウンテンバイクコースにも良いよねと大賛成。小屋も作ろうぜ、とか好き勝手なことを言っていた。
 また、道の駅の近くにはキャンプ場を開設することも田口氏のアイデアで事業が進んでいるはず。山を整備して出た木を薪にして販売する予定らしい。

 さて、そんな阿武町の自伐型林業への取り組みに町民の方々を巻き込んでいくための講習のキックオフ。兎に角敷居を低くもって自分たちにも何か出来るかも知れないということを感じて貰うための体験と、住民が山に関心を持つことで、土砂災害や獣害に対する意識を高めてもらえる様な内容をプレゼンさせてもらった。
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 ここは、シーカヤックが何十艇も入っているヤードの中。シーカヤックのガイドもされている地元の人の建物。そこに、ウッドマイザーという簡易製材機も導入された。そして翌日には製材機の運用講習も行われる。


【ローコスト:人力でどこまで出来るか・・・】
 阿武町の自伐型林業の初日講習となる入門編講習では、わたしの方で高強度の繊維ロープを活用して楽に楽しく森林資源活用を行うための技をお伝えする。
 敷居を低くして、取り敢えず誰でも取りかかれる様な安全で楽な手法から入らないと、先々のイメイジが湧かないからだ。

 みんながみんな、木を伐って出してお金にしたいという事ばかりではないはず。それよりも、重たい木を山から持って来られれば、燃料になるとか木工の材料になるとか、小屋作りの資材になるとか、そんな使い方の方が裾野が広いはず。

 写真はないが、幾つものノット(結び方)の練習や滑車を使った倍力システムの組み方もやった。それからロープを2本使って軽トラに太い丸太を楽に積み込みをする何時ものメニューも行う。女性一人で軽々と30cm弱の太さの2m材が積みこめることに歓声が上がる。

 あとは、山から木を出す時に大事な方法二つの習得。一つは動滑車を使いこなすこと。ワイヤーロープを使う場合には、引っ張るのに力があるチルホールとか林内作業車のウィンチとかバックホウを使うから、端から倍力を掛けることが思い浮かばないらしい。
 で、無理くり力づくで引っ張ろうとする。

 ロープの場合には、ロープの途中にノット(結び目)を作って、そこに滑車を設置していたら、牽引中に長さが足らなくなることがあるので、滑車を外して設定し直しになる場合がある(つまり、掛かり木によっては可なりの距離を引く必要がある)。
(下画像提供合同会社やもり)
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 講習では、クレムハイストやプルージックノットの結び方をはじめ各種ノットの習得を行う。と、言いつつもみんな家に帰ると忘れるので、ウェイビングからスローイングノット、などのロープワークも含め、安全率や応力の話もふくめたオリジナルの講習テキスト100ページくらいのものを渡しているので、あとは自己練習。
(下画像提供合同会社やもり)
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 もう一つ山から木を出す時に大事な作業は、樹上の高いところに牽引点やアンカーを設置すること。
 木を伐採する際にも、重心が傾いた偏芯木や起こし木、または最初から掛かり木になることが判っている木には、出来るだけ樹上の高いところに牽引点を作っておくことが、あとあと全ての作業の安全と労力を少なく済ませることを担保する。
 この作業を省いて期待だけでやるから、失敗した時のリカバリーが大変になるわけだ。

 で、樹上にロープ、もしくはワイヤーロープを回す方法の実習を行う。とは言っても、ハシゴで登るとか、ツリークライミングを行うなどの道具が嵩張ったり、熟練を要する様なものではなく、道具がない人、少ない道具でローコストに行いたい人向けの、地上から行う方法6種の実習を行った。ん、時間がなくて5種だったかも知れない。

 あとは、同じく木に登らずに樹上にアンカー(ロープを通したブロック:滑車)を設置する方法2種を行った。広葉樹などの力枝(ちからえだ)があるもの、針葉樹の様な枝がないものの両方に地上からアンカーを設置する方法を行う。

 此れらが出来るだけで、山仕事入門の殆どの障壁を突破できるだろう。掛かり木の処理や牽引伐倒には、アンカーを採るのが必要だが、さらに重たい木、つまり重量物の移動には高いところにアンカーが必要である。

 長い木は特にヘッドアップ、つまり引っ張る元を上に持ち上げながら行うと、抵抗が少なくなり、また障害物を乗り越えやすいので、アンカーは高いところに設置しないとあまり意味がない。材の頭が地面に突き刺さってしまうしね。

 そして、樹上にアンカーが採れれば、脱輪車両のレスキューや転落した機材の引き上げにも役に立つ。

 これらの手法は、人力・ハンドウィンチ・チルホール・エンジンウィンチ・他の車両・運搬車やトラクタ・重機などの牽引方法は問わない。全てに通じる汎用的で基本的な大事な技術だろう。
 で、写真はない。

 さて、今回の掛かり木処理の現場はこんなところ。谷下で斜めになっているのが掛かり木。これを寝かす訳だが、なかなか寝ないので、可なりの長さを引っ張り込んでいる。でもフリクションノットを使っていれば、ロープ途中の牽引点をずらすだけで済む。
(下画像提供合同会社やもり)
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 逆の位置から見るとこんな具合。谷下からロープが上がってきて、立木のアンカーでリダイレクト(方向転換)して、作業道の奥で人力牽引しているということ。
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 林内はこの様な感じ。ヒノキの放置林。掛かり木の処理方法を知らなければ往生する様な現場。自伐とか木の駅なんてこんなところばかりじゃないんですか?
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 上の画像では左上の方にロープが見えるだろう。これは前述の方法を受講者の方々に教えたので、道具だけ渡して、「あとは自分たちで工夫した樹上にロープを掛けてね。」、と突き放してわたしは牽引の準備をしていた。

 そうしたら、オバさん達と若い人たちで何時の間にか樹上の7m位のところにロープを回して牽引の用意ができた。凄い凄い!優秀ね。

 で、前出の画像の様に牽引伐倒の準備ができた。

 そして、チェンソーはと言うと、今や大橋式作業道作りに関して「有村は俺より全然凄いんですよ。丁寧だし、結果作業早いし。」、と田口氏に言わせる協力隊卒業生の有村氏に伐倒を頼む。

 田口氏が、「有村、掛かり木作ってくれって!」、と言ってくれたが、言わなくても予想通り即「掛かり木発生!」

 その伐木作業も受講者の人たちに近くの安全なところで観てもらう。机上講習でもスライドを観せて説明をしておいた追いヅル伐りを実際に見学。
 この現場では、追いヅル伐りを行う意味はあまりないけれど、実際に自分自身が足場が悪いところや斜めになっている偏芯木を伐採する様になった時の参考のために。

 受けを作ってからソーバーを突っ込んで伐り、前ヅルを正確に作る。隅切り(斧目)を入れて、皮が裂けたり、重心方向がずれない様に手当てをする。
 そして倒したくない側にクサビを打ち込んでおき、笛を吹いてから後ろヅルを切り離す。

 また、一人作業の時にも追いヅル伐りは非常に有効で、山側に起こし気味に伐倒するときは、あらかじめプラロックなどで引いてテンションをある程度掛けておいてから、最後に追いヅルを切り離せばバーも挟まれないし、木の裂けの心配もなくなる。

 今回は細い木だし、周りも混み入っているからそこまでやる必要はないけれど、初心の人たちはしっかりと基本を知っておかないといけないからね。

 こういった手続きをしっかりとやっておかないと、ツルが効かなかったり、中がちゃんと切れていないで倒れ始めてから木が回ったり、まるきり違う方向に倒れる様な事故に繋がる。

 放置林は、樹冠が葛で繋がっていたりするし、広葉樹ならばなおさら。阿武は広葉樹が多いので、針葉樹の伐採メソッドが役に立たない広葉樹伐採には、こういった基本的な手続きを踏むことを身につけておかないとシリアスな事故に繋がってしまう。

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 で、掛かり木発生。殆ど立ったまま。放置林ではこんなものでしょう。手入れをされた美林の中で伐採ができる環境にある素人って殆ど居ないのでは。
 講習会用の良い現場でピンポイント伐倒を教わったって、いざ自分たちのフィールドに入ったら危ない木ばかりだったりして・・・

 こんな状況の処理の仕方の智慧と道具が無かったら、元玉伐りをやるのは素直な発想だと思うのだが如何? こんな現場を含めて推進しているのが自伐とか木の駅なのかな〜。

 自分が少しだけ居た横浜市の水源林の保全を行う事業体では、主に切り捨て間伐ばかりだったけど、伐った木は斜面に対して横に倒して2点掛けで林地を整理していた。
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 ここは日陰の急斜面でひどい植生になっていた現場。
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 昔から現場写真をよく撮っていたからこんな時に役にたつ。現場は神奈川の津久井の山ね。当然元玉切りと折り伐りばかり。道具はチェンソーとクサビに手トビとロープ1本。
 これらの山はまだまだ楽なところ。他の現場ではボサボサのツル絡みの酷い山も多かった。何れにしても木は重心方向と90度ずれた横方向に倒すことが多かったから危ない掛かり木の処理が多かった様な記憶が・・・

 と、いうことで、講習の肝は、如何に楽に安全に掛かり木を寝かせられるかにある。まずは、人力1対1で直に引いてみる。メンバーは阿武町のお母様方3名。
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 少し動いた。
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 が、樹冠が他の木の枝に掛かっていて寄ってこない。お次は三倍力を設置。
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 お母さん達三人で引き続き引っ張ってみる。若い子達は応援しているだけ。
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 おおっ、行くね〜。ピシピシッと枝が折れなが倒れていく。元は変形しているけど25cmくらいかな。
 「どーですか〜?」、とお母さん達に聞くと、『そんなに大変じゃないですよ。』、と。

 「じゃあ、次は九倍力でやってみましょう」、と言って牽引システムを足した。
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 九倍力にして同じメンバーで引いてみる。
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 『おっ、行く行く!』、と周りから声が上がる。
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 「はい!もうひと頑張り〜」
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 ドサッ!と寝ましたね。樹冠長率10%以下・・・生きている枝と葉がついている樹冠が、普通木の高さに対して30%以下になると、木が成長しなくなると言い、さらに20%になるとほぼストップとか。この林はそれ以下か?
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 お母さん、『バンザーイ!!』、周りからは拍手の嵐・・・ 「ね、楽勝でしょ? なんかやれそうな気になってきました?」、とわたし。

 この後は、下の枝だけ払って樹冠をつけたままロープを引っ張るエンジンウィンチのPCウィンチを使って斜面上に引き上げる。
 障害物避けのスキッドコーンというキャップがない場合には、樹冠を残しておくと障害物を乗り越えやすいのだ。

 それから木を短くしてPCウィンチで斜面上まで引っ張り上げて講習会は終了。入門編講習の肝である、倍力システムの作り方と、木に登らずに地面から樹上にロープ or ワイヤーを掛ける方法を皆さんは覚えてくれたかな〜。


【趣味の路】
 講習会終了後には、他の町から参加していた地域おこし協力隊の若い人たちと一緒に、有村氏が作った作業路見学をしながら前述の自伐的な事業展開など色々な話をした。

 この有村氏の作った作業路について、田口氏が「有村の趣味の路だから、見てやって。」、と。どうも休みの日にまで現場に来て石積みをやっている様子。

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 まだ路面処理が終わっていない上の方の作成途中の作業路の法面にも、こんな石積みがあちこちに見られる。こんなのが工数に入っているとクライアントさんに勘違いされたら困ってしまう様な丁寧な仕事をしているのだ。
 この石積み、ちゃんと裏込めの処理もしてある。休みの間にやっている趣味の範囲。

 また、ここの現場は岩が出るので、洗い越し(沢を越えるところ)も大きめの岩を組んで大橋式道作りのセオリー通りにやっている。ルート作りに関しては岡橋師匠にも来てもらったらしい。尾根から沢を越えて山頂までどうやってルート採りをするかの全体像の設計は経験者でないと難しいだろう。

 でも、こんなダイナミックな仕事が出来るのも田口氏が阿武町と一緒に国の事業を持ってきたから。

 その有村氏には、うちの集落辺縁の水路管理のための路作りもやってもらっている(もう一人O賀氏と二人で作業)。町からでる助成金にさらに集落の団体からメートル当たり千円を上乗せして頼んでいるので可なり良い道ができている。
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 うちの集落の周りの山は岩が出ないので石積みはないな〜。こうやって路を入れて貰うと集落の周りの山にアクセスし易くなるのを実感。この下の方にはイノシシ避けの柵が張り巡らされているが、他の記事にも書いた様に、その中までクマさんが出没している。

 イノシシは当然出まくっているし、最近はオス鹿も観られる様になってきたから、獣害対策にも山の整備が必要だし、それにはこういった作業路が無いと一向に整備にも取りかかれない。
 今後、地方の農山村維持のためには、小さな林業と壊れない作業路作りがさらに必要だろう。

 雲南市では二年前に田口氏達に作業路づくりの講習をやって貰ったが、再度のリクエストが来ているので有村氏をメインに講習を行う話も進んでいる。島根県の地域振興の部署の方が、こういった作業路開設の事業の価値を認めているらしい。

 また、広島県でも作業路開設講習を行う話も出ているし、それ以前に、大先生の橋本先生も島根県下でも、また広島県下でも講習をされているので、今後さらに山に優しい壊れない作業路作りの需要が高まってくるのではないかと期待している次第。

 中国地方の小さな林業の流れは現在この様な感じで進んでいるが、田口氏の様なビジネス手腕を活かした展開をできる人が他に居るとは思えないので、彼の手法は自治体レベルの一つの切り口のサンプルとしつつ、他の人たちは地域や自分たちの方法を創出して、また違った切り口で成功させて欲しい。

 其のためには、何れにしても人。人材だよね。事業体もそうだし自治体なんかでも人を駒の様に使い捨てするところが少なからずあるけれど、そんなところには優秀で想いがある人は来ないし、来ても留まらない。

 また、地域が魅力的でなければ優秀な人ほど出て行ってしまう。補助金頼りで町政を回し、自立した地域自治を志向していない自治体には、依存心が強くて、責任感って何?って人たちが同じ波長をもって集まってきて、そして文句を言って辞めていく循環をこの九年近くで観ている。

 自伐は自営、自営は自立、そういった精神が相似的に地域や自治体、そして国全体に広がっていかないと、大規模な自然災害が増えてきた時代に於いて自らの力で切り抜けて行くことがますます困難になるだろうね。

 と、講習会の道具の整理片付けをして車に積み込んでいたら日が暮れてしまった。そこで、阿武町の港の夕暮れを撮影。良いところでしょ。さて、今後の阿武町、どうなっていくのでしょうか。
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以上